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眠れる森 〜A Sleeping Forest〜 第二章

眠れる森第二章   無加筆版  <龍之介>


第一幕 「再び」

あれから3年の月日が経った。
直季は相変わらず植物状態のまま眠り続けている。
彼は父親の出身医大の特別室に入院し集中治療を受けている。
正輝が「せめても償いに」と実那子に強く申し出た為だ。
実那子は正輝に経済的援助を受けることに強い抵抗があったが、
直季を目覚めさせる為にと自分の気持ちを押し殺す。
直巳は何も言わず「中之森」で同じ暮らしを続けている。

実那子は福島の家を元秘書に買ってもらい、
それを元手に看護婦の資格をとる。
季を目覚めさせるため、それが駄目でも一生直季の面倒をみる為だ。
そして直季が入院している大学病院で半ば直季専属のような形で働いている。
もちろん正輝のバックアップのもと。

輝一郎は人格崩壊を起こしており、
責任能力なしとして保護観察のもと精神病院に入院している。
監視役兼主治医は小林義人医師(豊川悦司)である。
もちろん恩田刑事もこの事件は忘れてはおらず、時々病院に訪れる。

国府は情状酌量が大きく認められ、
さらに森田一家殺害事件が冤罪であったことも証明され、
輝一郎への傷害については執行猶予となる。
そして横浜で春絵とともにささやかな暮らしを続けている。

そんなある日、実那子のもとにバニラエッセンスの香りがする蘭が届けられる。
添えられたメッセージカードにはこう書いてあった。
「本当の終わりへの始まり」と。

その直後、春絵が何者かに襲われ下腹部を刺される。
命に別状はないものの妊娠していた子供は流産となる。
して直季の病室にも何者かが訪れていた。


第二幕 「記憶」

その時、実那子が病室を訪れる気配がする。
侵入者は直季に何もせずに病室を出て行く。
実那子はいつものように病室のソファーに座って直季に話しかける。
敬太との森での思い出や様々なことを。
しかしこの3年間と同じように、直季からは何の反応もない。
実那子は「本当の終わりへの始まり」と書かれたメッセージカードを直季に示し、
「貴方を守る。今は貴方が私の一部だから」と語りかけ、
国府と輝一郎を訪ねることを告げて病室を出る。

輝一郎の病院で実那子は国府をを見かける。
時々手紙のやりとりはあったものの事件以来国府に会うの3年ぶりだ。
国府は春絵が刺されたこと、それで輝一郎を疑い、病院を訪ねたが、
主治医である小林に「輝一郎は全く回復していない」と告げられたと話す。
実那子は「ずっと気になっていた」と何故輝一郎が犯人だと気付いたかを
国府に尋ねる。国府はその理由を説明する。
その理由を聞いて改めて実那子は国府の貴美子への愛の深さを知る。
当時の記憶を取り戻していた実那子は楽しかった頃の思い出を国府と話し合う。
そしてあえて会いたくはない輝一郎を訪ねることなく実那子は精神病院を去る。
別れ際に国府は言う。
「実那子ちゃんは直季君の面倒だけを見ていればいい。
なにかあったら僕に知らせてほしい。今度は君も春絵も守ってみせる。」

正輝はある提案を輝一郎の主治医から持ちかけられていた。
「このままでは輝一郎は回復しない。また回復しても同じことの繰り返しだ。
輝一郎を回復させる手段は18年前に直季の父が行った記憶の塗り替えしかない」
と。
しかし輝一郎が十数年後記憶を取り戻し、怪物として復活する危惧を抱く正輝は
「このままでいい、このままが輝一郎の幸福である」と答える。

夜、実那子は直季に聞かせる話をテープに録音した後、眠りにつく。
何もかも忘れて眠る美那子、だが何者かが美那子の部屋に侵入しようとする。
その時、病院の直季の手が微かに動く。



第三幕 「眠れる森で」

翌朝、実那子が目を覚ます。
実那子はテーブルの上に置かれた写真立てを眺める。
そこには森田一家の写真と直巳、直季親子の写真が並んでいる。
二つの家族の写真を複雑な気持ちで眺める実那子?B
どこからかバニラエッセンスの香りがする。
食卓に置かれた蘭の花。
メッセージカードにはこう書かれている。
「人々はまだ眠りの中にいる。何一つ終わってはいない」。
戦慄する実那子。その時、電話が鳴る。

電話は直季の主治医、小林からのもの。
直季の脳波に微かに意識反応がみられたという内容。
病院に駆けつける実那子。直季の様子にそれほど変わりはない。
反応もない。すでに直巳には連絡済みという。実那子は言う。
「森に連れていかなくはならない。
直季が目覚めるところは眠れる森しかない」。
実は直巳にもそう言われたと主治医は話をする。
ふと、主治医は言う。実那子は全ての記憶を取り戻したのかと。

実那子「事件の事はほぼ全て。国府さんとお姉さんのことも。
でも福島の森での他のことはうっすらとしか。
溺れて亡くなった男の子の記憶なんかもどうもはっきりしなくて。
も子供の頃の記憶って誰だってそんなものなのかもしれません」

直巳のもとには輝一郎の主治医が訪れている。
輝一郎の治療に直巳の助言が欲しい、
記憶を塗り替えたいが正輝の同意が得られない、
フラッシュバックが起きない塗り替えを目指すと彼は言う。
直巳はもうあんなことはしないほうがいい。
資料も全て焼いてしまったと話す。
「君は野心溢れる精神科医だ。昔の私のように。
しかし大きな間違いをしないでほしい」。
直巳のもとを去る豊川。帰り際直季の病状を尋ねる。
実は今朝連絡があったと話す直巳。豊川の表情に陰が走る。

眠れる森では直巳と実那子によって直季の治療が行われる。
けれど、なかなか効果が出ない。
しかし敬太、由理という言葉には脳波の意識レベル反応が微かに現れる。
ある夕方、実那子はスープを作っている。
直季のベッドまで流れるスープの香り。
直季のまぶたがゆっくりと開いていく。



第四幕 「目覚め」

スープを直季のベッドの近くのテーブルに置く実那子。
「今おとうさんを呼んでくる。一緒に食べようね」。
何の反応もしない直季。目も閉じられたままだ。
夕日がどこまでも深い光を二人に投げかける。
じっと見つめているうちに実那子の目から涙があふれ、
森で出会った時の直季の姿が頭の中を駆け巡る。
思わずそのまま泣き伏してしまう実那子。
突然声がする。
「実那子、そんなに泣いちゃうぐらいスープが好きだったっけ。
蒟蒻のリボン巻きだけじゃないんだね。」
目覚めた直季がいつもの笑いを浮かべている。
涙も止まり、ただ見つめるだけの実那子。見つめるだけの直季。

実那子、突然思い出したように立ちあがり、
「おとうさんを呼んでくるね」と部屋を出る。

直季はベッドの脇を見る。
そこには敬太と由理と自分の写真が立ててある。
その横には自分と直巳の写真が。
しばらく無表情にそれを眺める。
直季の目から涙が溢れてくる。次の瞬間激しく頭を抱える直季。
激しく髪をかきむしる。教会のマリア像が頭に浮かぶ。
様々な記憶がフラッシュバックされては闇に消えていく。
直巳と実那子が戻ってくる。
不思議そうな顔で二人を眺める直季。
直巳は直感的に事態を悟る。
直巳「直季、私たちのことが分からないのか」

恩田刑事が国府のところに訪ねてくる。
春絵を刺した犯人がつかまったと。犯人は未成年の男。
精神的にひどく不安定で春絵を刺したことを全く覚えていない様子だとい
う。
もし輝一郎が犯人だったらどうするつもりだったかと恩田刑事は国府に尋ねる。
国府は寂しげに笑って答える。
「すべては終わった。俺はそう考えているんですよ。」
田刑事が去ったあと、国府は病院のベッドに眠る春絵に向かって言う。
「ずっとそばにいるわけにはいかなくなった。
地獄の底のその下にまだ地獄があったのかもしれない。
おまえのことは兄さんに頼んでいく。
俺は貴美子との約束を果たさなくてはならない。いつもすまない。」

正輝が麻紀子の首をしめている。
だが必死にあらがっているのはむしろ正輝の方だ。
麻紀子は歓喜の表情を浮かべているようにも見える。
「麻紀子やめてくれ」と正輝は叫ぶ。静かな麻紀子の声がする。
「なにを恐れているの。私を殺すのよ。
そうすれば私は永遠に美しいままで貴方の中で生きることができる。」
そこで正輝は夢から覚める。

正輝は輝一郎に面会する。
二重になったドアの鍵は小林医師が開けてくれた。
無表情な輝一郎。豊川医師は去る。
正輝独り言のように輝一郎に話しかける。
「またあの悪夢をみた。麻紀子は自分が殺したのだろうか。
昔から時々数時間の記憶をなくすことがある。
その後はそれがまるで神の天啓であったかのように、
決まっていい絵が描けた。記憶にない時間の中で、
私はお前の母さんを殺したのかもしれない。恐ろしいことだ。」



第五幕 「封印」

直巳「実那子だ。分からないのか。直季」。
直季「ミナコ…」。
敬太と由理の写真を指差して言う。
「この二人は誰ですか。この二人が夢で言ったんです。
早く起きてミナコを守らなくちゃ駄目だと。
でも貴方たちのこと、俺は知りません。」

実那子のナレーション
伊藤直季は全ての記憶をなくしていたわけではなかった。
名前はすぐに思い出した。
仕事も、私のマンションのそばに引っ越す前の住所も全て覚えていた。
ただ眠れる森にまつわることだけは、
事件のことも、中嶋敬太君のことも、由理さんのことも、私のことも、
そして父親のことさえも忘れていた。
おそらく敬太君や由理さんの「心と命」を救えなかった罪悪感から、
直季は自分で二人や私にまつわる全ての記憶を
封印してしまったのではないかと父は言った。
でも私には分からないことがあった。
直季は何故父親にまつわる記憶の全てまで封印してしまったのだろう。
敬太君と出会う前のずっと幼い頃の記憶まで。

国府、小林医師に輝一郎への面会を申し出る。
もちろん拒絶する小林。
「濱崎がああなったからには、もう復讐劇はフィナーレです。
そのことを一言告げさせて欲しい。」
輝一郎に対面する国府。輝一郎相変わらずの無表情。
「濱崎、終わりだ。分かるなこの意味、終わりだよ」
小林「一言の約束です。出てください。」
国府素早く輝一郎の耳元でささやく。
「お前はこの自分だけの世界でじっとしてろ。
人間の世界に二度と顔を出すな。
俺たちの地獄に比べればここは天国じゃないか」
小林に連れ出される国府。残される輝一郎。その顔に微かな笑みが浮かぶ。

夜、小林医師、病院の研究室で論文を書いている。
めまい。見ると両手が血に染まっている。
少年の背中をその手が押す。少年が激流にさらわれ消えていく。
川の向こう岸に麻紀子が立っている。錯乱する小林。



第六幕 「秘密」

1ヶ月が経つ。直季の体は体力を取り戻す。
実那子が森のハンモックで寝ている。
そばに立つ直季。
直季「あのさ、えーと、姉さん、いや実那子さん」。
実那子「いつまでそんな呼び方してるのよ。
実那子でいいって言ったでしょ。
あなた初めて逢った時から呼び捨てだったのよ」
直季「でも、ま、一応年上なわけだし」
実那子「伊藤直季はね、そういう事お構いなしの失礼なやつなのよ」
直季「なかなか言うね。そういう実那子だってさ、
あなたってばかりで俺のこと直季なんて呼ばないじゃん」
実那子「そりゃ、私の場合は呼びなれていないからよ」

直季「東京帰ることにした。
先輩に電話したら仕事復帰しろって言ってくれたし。
それでさ、実那子はさ、俺のことどのくらい知ってるのかな。
出会ったのは3年前で、その3年間、俺はほとんど眠っていたわけだし。
話聞いたけど変わった関係だよね、実那子と俺。
あの人、えっと親父のこと、愛想ないけどいい?lだよね、
でも親父の話、なんか肝心なところが曖昧なんだよね」
実那子じっと直季を見つめ、
「知ってるわよ。あなたのことならなにもかも」
キョトンとする直季。
「そんなわけないだろ、初めて逢ったのは俺が25の時じゃないか」
実那子笑みを浮かべて
「知ってるのよなにもかも。」
耳に顔を近づけて
「だってアナタは私の一部なんだから」
と家に向かって歩き出す。
残された直季の声が森に響く。
「どういうことだよ。ちゃんと説明しろよ。
記憶なくしてんだぞ俺、可哀想とか思わないのかよ」

実那子のナレーション
敬太君と由理さんの事をうまく説明する自信がなかった。
いや、伊藤直季に対する自分の気持ちが説明できないからかもしれない。
私は過去に関する説明を全て父に任せていた。

「新しい自分、名前も仕事も友人も恋人も全部捨てて、
新しい自分になりたいと思ったことない?」
そう伊藤直季は言った。
あれは彼から私に贈られた記憶と同じで、
彼自身の願望だったのだろうか。
私を見つづけた15年の記憶、敬太君の記憶、由理さんの記憶、
それが戻ってくることが彼にとって幸せなことなのだろうか。
私にはわからなかった。

その時、実那子は誰かの執拗な視線を感じる。
「この1ヶ月、何回かそういうことがあった。
その視線から受ける感覚は、
あの結婚式の最後、「僕を憎め」といった時の輝一郎から受けた感覚と
そっくりだった。
最初に視線を感じた時、私は輝一郎の病院に電話をかけてしまった。
輝一郎は間違いなく病院にいると看護婦さんが言った。
きっと気のせいだ。少し色々あり過ぎた。
かかえきれないくらい沢山のことが。疲れているのだ、きっと。」

直季の状態を実那子に説明する直巳。
病気や痛みは自己防衛。直季の記憶喪失も自己防衛。
無理に記憶を戻すのは危険である。
このままでかまわない。と直巳は言う。
「実那子、このまま記憶が戻らなくても直季と一緒に生きてくれないか」
ためらう実那子。
「お前がためらうのも無理はない、
だが、お前と直季は実の兄弟ではない」



第七幕 「視線」

直季は直巳の実の息子ではなかった。
直季の本当の父親は直巳の友人の精神科医。
直巳「優秀な男だった。
しかし強い妄想癖をもつ女性患者の治療にたずさわり、
自らも精神を病ませていった。
精神の治療には、ごくたまにだがそんな危険がつきまとう。
そうして直季を身ごもっていた婚約者を殺そうとした。
何故かは私にはわからない。
彼はそんな自分をコントロールできず、殺人者になる前に自ら命を絶った。
私は直季を妊娠していた直季の母と結婚した。
父親のそんな死に方を直季に知られたくないこともあり、
ずっと隠していた。私は実の子だと思っている。
でも直季はどこかで実の父ではないと感じていたのかもしれない。
私の記憶まで封印してしまったのはそのせいだと私は思う」

直季、実那子東京に戻ってくる。
直季は元の職場に、そして実那子も「オーキッドスクエア」に復帰する。
中山園長は泣いて喜んでくれた。
実那子のマンションは正輝が買い取った。
3年前、罪悪感で潰されそうな正輝がそれを懇願した。
実那子は断ることができなかった。
直季のアパートも正輝によってそのままの形にされていた。
夜、ベランダ越しのキャッチボール。
それでも直季の記憶は戻る気配もない。

東京に帰ってからも実那子にまつわりつく視線の感覚は消えなかった。
ある夜、何者かが侵入し、眠っていた実那子の口をふさぐ。
物音に気付いた直季が駆けつける。格闘の末犯人を取り押さえる。
かぶっていた覆面を取る。
犯人は30過ぎの見たこともない男。あらぬことを口走っている。
警察は変質者による事件と断定する。
しかし男が逮捕された後も実那子にまとわりつくあの視線の感覚は消えな
かった。
実那子を見つめる人物の姿、それは小林医師だった。

国府が直季の前に現れる。
俺達の地獄に君を巻き込みたくなかったと国府は言う。
直季が記憶をなくしていることに驚くものの、
実那子に危機が迫っていると言う。
季「あんたはどうして実那子を守ろうとするん?セ」
国府「貴美子が俺に守れと言ったからだ。
貴美子は父による虐待を知っていた。
自分たちが駆け落ちしたあとの実那子のことをいつも心配していた。
あの夜、瀕死の貴美子は実那子を頼むと俺に言った。」
直季「でも貴美子さんはものなんか言える状態じゃなかったでしょう」
国府「口はきけなかったが、たしかに貴美子はそう言った。
俺には間違いなく貴美子の声が聞こえた。」

春絵を襲った若い男も、今度の犯人も、小林医師の昔の患者だと国府は言
う。
背後に輝一郎がいる可能性がある、だが確証はない。
そして輝一郎が何をねらっているのかは分からない。
小林医師が輝一郎に協力する理由も分からない。
協力者であるという確証もない。俺への復讐なら分かる。
でも実那子を襲う理由はない。
国府「俺は福島にいく」
直季「なぜ」
国府「溺れて死んだ少年に兄がいたかもしれない」



第八幕 「復活」

国府の帰りを待ちきれず、小林医師に面会する直季。
小林医師、輝一郎の病状を説明。
イブの夜の前まで、輝一郎は一種の多重人格であったが、
「ジギルとハイドとは違う」。
いくつかの人格はお互いにお互いを知っており、
不思議な人格の統一が行われていた。
いくつかの人格を持ちながら輝一郎というひとつの人格として
ふるまうことができた。
今は人格崩壊を起こしており、正常な生活は営めない。

直季「先生、御出身はどこですか」
小林「東京ですが、どうして」
直季、小林を問い詰める。
実那子を襲った犯人も春絵を襲った犯人も二人とも貴方の元患者だ。
あんたが暗示をかけたんだ。
小林、関係を否定。
「貴方は亡くなった沖田少年の兄だろう。
森田家に復讐するために最後の生き残りである実那子を狙っているん
だ」。
小林強く動揺する。
携帯が鳴る。国分からのもの。
沖田少年の兄は福島にいる。小林と沖田少年には関係がない。
小林「わかったでしょう。お引取りください」
直季が帰ったあと、めまいを感じソファーに倒れこむ小林。
少年を川に突き落とす感覚。ほほえむ麻紀子の顔。

直季と実那子
実那子「濱崎輝一郎が背後にいる。国府さんがそう言ったのね。
でもだとするとねらいは何。」
直季「わからない。問題はどんな人格が濱崎の中に復活したのかだ」
実那子「でも濱崎輝一郎がどうして私を襲うの。
私を憎んでいるの。小林先生は何故濱崎輝一郎に協力するの。
メッセージカードにあった本当の終わりって何?」
直季「だから実那子の知ってる濱崎輝一郎かどうかわからないだろう」
(そうだ。私は濱崎輝一郎のことを何も知らなかったのだ)
直季「あっ、何か悪いこと言っちゃった?やな奴なのかな俺」
実那子「そうよ。すっごくヤナ奴だったんだから。
自信満々でいつもうすら笑い浮かべてた。
そのわりには喧嘩に弱いのよ。思い出した?」
直季「全然、ま、別にいい人じゃなくてかまわないし」
前にある鍋から蒟蒻のリボン巻きを取り、おいしそうに食べる。
実那子「ふーん」
直季「何だよ。気持ち悪いな。」
実那子「そういうのって変わらないんだ」

直季「実那子、人間は過去なしでも生きられるのかな」
実那子「生きられるわよ」
直季「やけにはっきりと断定するね」
実那子「だって伊藤直季がそう言ったのよ。」

直巳が上京する。
直巳「顔を見に来た」
直季「ふーん、俺仕事、適当にやっててくれよ、オヤジ」
ほほえむ直巳。

直巳、正輝を訪ねる。
正輝「よくいらしてくれました。
本当はあなたに会える立場じゃないんだが、
精神科医として聞いていただきたい」。
正輝、輝一郎についての不安を話す。自分の悪夢についても。
小林の治療が行き過ぎることへの不安も。
直巳「たとえ貴方が麻紀子さんを殺していたとしてもとっくに時効だ。
時効でもあなたの心は癒されはしないだろうが。
これはカンだが、貴方は奥さんを殺してはいない。
小林君の治療については私も不安を感じています。
輝一郎君に何らかの人格が復活しているとすれば、危険だ。
(小さな声でつぶやく)
麻紀子さんを治療した直季の本当の父親のように
患者の妄想にとりこまれる危険がある。」

その頃、病院では正輝の反対や直巳の警告を無視して、
小林による輝一郎への「記憶の塗り替え」が行われている。
しきりに動く輝一郎の口元。
小林の目はその口元に惹きつけられていく。



第九幕 「妄想」

小林による「記憶の塗り替え」はずっと前から行われていた。
しかし塗り替えの途中で復活し始めた輝一郎の強烈な自我は
むしろ小林を侵していった。小林はそれに気付いていない。
小林には子供時代、友人をプールに落として溺れさせ、
あやうく殺しかけた記憶があった。
輝一郎はその記憶、罪悪感を手がかりに、
沖田少年の事件を小林に埋め込んでいき、
さらに小林の人格を支配しはじめていた。
自分は溺れた少年の兄で、
突き落としたのは自分だという妄想に小林はおかされていた。
また麻紀子に関する妄想は彼にも精神感染していた。
輝一郎を惑わす女は許せない。

輝一郎に人格支配された小林。
転地療法と周りに偽って輝一郎を病院から連れ出す。
微笑する輝一郎。車は輝一郎の家の前で止まる。
小林、支配状態から抜け出そうとする。
輝一郎「あんたは弟を殺したんだ。それを思い出せ。」
小林「やめろ。やめてくれ。少年を殺したのは私じゃない、君だ」
微笑む輝一郎。
輝一郎「お前だ。お前が殺したんだ」
再び暗示状態になる。
輝一郎「先生にはもうひとつやってもらいたいことがある」
家に帰ってくる正輝。絵画に囲まれて座っている輝一郎。
「輝一郎」正輝絶句する。
輝一郎「おかえり、父さん。前から聞きたかったんだ。
母さんをどこに埋めたんだい?」
倒れてしまう正輝。
輝一郎「安心しなよ。病院で時間逆行の治療を受けてね。
思い出したんだよ。母さんを殺したのは僕だ。」
輝一郎興奮状態になる。
「母さんが誘ったんだ。僕は13歳だった。
私の首を絞めて殺すのよ。
愛とは愛する人を永遠の思い出の中で活かすことだと母さんは言ったん
だ。
父さんは私を愛していない。本当に愛してるのは輝一郎だと。
僕は暗示にかけられたように母さんの首を絞めた。
あの恐怖と快感は貴美子を刺した時のものと同じだ。
母さんの体から力が抜けたとき、僕は快楽のあまり失神してしまったよ」
正輝苦悶にうめく。
「気がつくと母さんの遺体はなかった。
僕はベッドに寝ていてあれは悪夢だと考えた。
母さんは酒瓶をもって消えたと父さんは言った。
母さんの遺体をどこかに埋めたのは父さんだね。
記憶にないか。なんか便利な記憶だよね。
でも母さんを殺したのは僕と父さんだ。」
気を失う正輝。

小林に呼び出される実那子。
正輝の家に来てほしいという。
疑いながらも出向く実那子。
「何が待ち受けているにせよ、もう過去に決着をつけなくてはならない」

正輝の家。
玄関口、実那子、いきなり薬をかがされて眠ってしまう。



最終幕 「童話」

直季のもとに結婚披露の招待状が届く。
場所とともに「最後のパーティ」と書いてある。
コートをとり駆け出そうとする直季。
誰かの腕が引き止める。
敬太だ。茫然とする直季。
敬太「おいおい、忘れちゃったのか。相変わらず人情薄いよな、お前は。
直季、今度は本当に最後だぜ。
輝一郎のねらいは実那子ちゃんじゃなくてお前かも知れない。
警察にまかせるんだ。それから俺のことは気にするな。
隠れ家で楽しくやってるよ。
由理は相変わらず、つれないけどな、そこがまたいいんだ」
直季「輝一郎が警察につかまっても同じことの繰り返しだ。決着をつけ
る。」
敬太の幻を振り切って駆け出す直季。

正輝の家に入る。
アトリエはすっかり飾られてパーティー会場のようだ。
気を失った正輝がソファーに座らされている。
実那子がウエディングドレス姿で椅子に縛られている。
口はふさがれている。
直季「実那子」と駆け寄ろうとする。
直季後ろから頭を殴られて倒れる。
輝一郎「招待客は少ないけどな。結婚式のやりなおしだ。」
遠くなる意識の中で実那子に近づこうとする直季。

二人の目と目が合う。
実那子が腕を伸ばす。直季が手を伸ばす。
二人の指と指が触れ合う。
直?Gの体に電流が走る。
実那子を見つめつづけ、そして「愛しつづけた」全ての記憶が蘇る。

意識を取り戻す直季。椅子に縛られている。
正装で立っている輝一郎。
手にはナイフを持っている。
ウエディングドレス姿の実那子。
後ろ手に縛られて口はふさがれ、輝一郎に拘束されて立っている。
直季「実那子を離せ。」
輝一郎「花嫁を離す新郎がどこにいる。君は立会人だ。
二人の門出を祝福してくれ。
父さん寝てちゃ駄目だよ。ちゃんと見届けてくれないと。
そうだ伊藤直季、ひとつ教えてやろう。
中嶋敬太、あいつに愛を教えたのは俺だよ。あいつ幸せものだよな。」
直季「お前が敬太をあやつったのか」
輝一郎「あやつったんじゃない。
背中を押してあいつの願いをかなえただけさ」
直季「ふざけるな」

その時、ガラス窓を破って国府が部屋に飛び込んでくる。
輝一郎に体当たり。輝一郎倒れナイフが床に落ちる。
国府素早く実那子を奪い、手のロープをほどき、口を自由にする。
実那子「輝一郎、もうやめて」
輝一郎「何もかも筋書き通りだな」
その言葉に鋭く反応する直季。
輝一郎「実那子、そうだ。僕をもっと憎むんだ。
僕はまだそれほどの罪を犯していない。福島の事件は時効だ。
警察につかまってもすぐ出所できる。そうしてまた同じ事をする。
「一生それの繰り返しだ」、そうだったよなあ国府」
新しいバタフライナイフを取り出して直季の首を切る真似をする。
実那子「やめて」
輝一郎「僕と言う存在がこの世から消えるまで、この地獄は終わらないん
だよ」。
実那子落ちていたナイフを拾って輝一郎に向ける。
輝一郎微笑む。
「そうだ、実那子、それでいいんだ。」

輝一郎に突進しようとする実那子。
直季「やめろ」と叫ぶ。
直季「実那子だって気付いているだろう。
こいつは実那子に自分を殺させようとしてるんだ。
徹底的に憎ませ、そして愛させようとしてるんだ。
こいつを殺したら、実那子は一生こいつを思いつづけることになるんだ」
輝一郎「黙れ」
ナイフを首に回す。突進する実那子。椅子に縛られたまま飛び出す直季。
ナイフは直季の腕に刺さっている。
穏やかな表情で実那子を見つめる直季。ナイフを落とす実那子。
輝一郎直季を突き飛ばし、自分のナイフを実那子に握らせる。
輝一郎「さあ、本当の終わり、そして僕らの本当の始まりだよ。実那子」

その時、誰かが輝一郎の背後から彼を刺す。
正輝だ。
正輝「輝一郎、母さんから自由になってくれ。私もすぐ行く。」
輝一郎倒れる。苦痛やがて幸福な表情。
「父さん、ありがとう。やっとこれで、、。」
目を閉じる。輝一郎の目から涙がこぼれる。
泣きながら遺体にすがる正輝。
輝一郎の死に顔を見つめる実那子の目から涙がこぼれる。
見つめる国府。見つめる直季、直季の瞳が涙で光る。

実那子ハンモックに寝ている。
そばに直季が立つ。
実那子「腕はもういいの」
直季「全然大丈夫、ほら」と差し出した手に小さな花束が握られている。
直季「実那子みたいな気の強いのが俺の姉さんなんておかしいと思ったよ。
親父のやつ、どうでもいいことを隠しやがってさ」

直季「王子はどうして眠れる森の美女を起こそうと思ったんだろう。
美女だったからかな」
実那子「きっと彼女の気が強そうだったからよ。
王子はそういう女性を待ってたのよ。」
直季苦笑しながら「やっぱり納得できないよな」

ナレーション「濱崎輝一郎は人生は童話じゃないと私に言った。
でも私はこんな童話があってもいいと思う。ここは私たちの眠れる森なのだ」
実那子ハンモックから降りて立つ。
目と目が合う。ゆっくりとくちびるが重なっていく。

(カメラ頭上より、それが引いていき、二人の姿は点となる。
やがて森の全景が映し出されていく)     完


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またこのページの物語は龍之介さんの何だか最後の "このページの一部、あるいは全部の無断引用、無断転載、複製を禁じます" のところが気になります。どっかの Web Site で公開された小説みたいな気がするのですが……。

"またこのページの物語は龍之介さんの" で切れてる部分も,"龍之介さんの創作であり,実際のドラマとは無関係です" とか続くんじゃないかなぁ……。




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